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神戸地方裁判所 平成8年(行ウ)25号 判決

原告

株式会社タツミコーポレーション

右代表者代表取締役

李相哲

右訴訟代理人弁護士

中尾英夫

工藤涼二

被告

三木市長 加古房夫

右訴訟代理人弁護士

松島諄吉

小林淑人

大藤潔夫

齋藤光世

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

(原告)

一  被告が平成七年一二月一四日付で原告に対してなした、原告の平成五年一二月三日付申請にかかる別紙建築計画目録記載の建築計画についての不同意処分を取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  事案の概要等

本件は、パチンコ店の新設を計画した原告が、被告(三木市長)に対し、平成五年一二月三日付で、三木市遊技場等及びラブホテルの建築等の規制に関する条例(以下「本件条例」という。)三条二項の同意を求める申請を行ったところ、被告が、平成七年一二月一四日付で同意をしない旨の決定(以下「本件不同意処分」という。)をしたため、本件不同意処分が違法であるとして、その取消しを求めた事案である。

一  争いのない事実等(証拠を掲げた事項以外は、当事者間に争いがない。)

1  原告は、有限会社タツミ商事から組織変更した株式会社で、遊技場、飲食店の経営等を目的とする会社である。

2(一)  本件条例は、パチンコ店等を規制対象施設とし、それらの建築、大規模の修繕、大規模の模様替え及び規制対象施設への用途の変更(以下「建築等」という。)について、次のとおり規定している。

(目的)

第一条 この条例は、市内における遊技場等及びラブホテル(以下「規制対象施設」という。)の建築等に対して必要な規制を行うことにより、市民の快適で良好な生活環境及び教育環境の実現と沿道修景の保全を図ることを目的とする。

(届出及び同意)

第三条2 市内において規制対象施設の建築等を行おうとする者(以下「建築主」という。)は、規則の定めるところにより、あらかじめ市長の同意を得なければならない。

(同意の基準)

第四条 市長は、建築主から前条第二項の規定に基づき同意を求められた場合において、建築しようとする規制対象施設が次の各号の一に該当する地域又は区域(以下「規制区域」という。)に位置するときは、同意しないものとする。ただし、その建築が規制区域の生活環境、教育環境及び沿道修景を害するおそれがないと市長が認める場合はこの限りではない。

(1) 都市計画法(昭和四三年法律第一〇〇号)第八条第一項第一号に規定する用途地域のうち第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域、第二種中高層住居専用地域、第一種住居地域、第二種住居地域及び準住居地域並びにこれらの周囲おおむね一〇〇メートル以内の区域

(2) 都市計画法第四三条第一項第六号に規定する土地

(3) 別表に定める施設のうち市長が指定するものの周囲おおむね二〇〇メートル以内の区域

「別表

(5) 都市公園法(昭和三一年法律第七九号)第二条に規定する都市公園

(6) 医療法(昭和二三年法律第二〇五号)第一条の五から第二条までに規定する病院、診療所、老人保健施設及び助産所

(7) 公共団体又は公共的団体が管理する施設」

(4) 市長が指定する道路の両側それぞれおおむね一〇〇メートル以内の区域

(5) ラブホテルについては、前各号に定める規制区域のほか、都市計画区域に含まれない区域

(同意を得ていない規制対象施設の建築等の指導)

第六条 市長は、第四条の同意を得ないで規制対象施設の建築等を行っている者及び前条に規定する指導に従わない者に対して必要な勧告を行うことができる。

2 前項の勧告を受けた者は、速やかに当該勧告に従い、必要な措置を講じなければならない。

(中止命令等)

第七条 市長は、建築主が第三条第二項の同意を得ず、又は前条第一項の勧告に従わず、なお規制対象施設を建築しようとするときは、当該規制対象施設の計画の変更若しくは工事の中止を命じ、又は当該規制対象施設の除却その他必要な措置をとることを命ずることができる。

(罰則)

第一二条 第七条の規定による市長の命令に違反した者は、六月以下の懲役又は三〇、〇〇〇円以下の罰金に処する。

(二)  さらに、「三木市遊技場等及びラブホテルの建築等の規制に関する条例施行規則」(昭和五九年七月二四日規則第一〇号。以下「本件条例施行規則」という。)には、次のとおりの規定がある。

(同意申請)

第六条 条例第三条第二項の規定により市長の同意を受けようとする者は、建築基準法第六条第一項の規定による確認の申請書を提出する前(都市計画法第二九条に規定する許可に係る開発行為を伴うものにあっては、同法第三二条の規定による協議を行う前)に、規制対象施設建築等同意申請書(様式第三号)を市長に提出しなければならない。ただし、条例第三条第一項の届出をしたラブホテルの建築等については、この限りではない。

2 前項の申請書には、建物用途別現況図その他市長が特に必要と認める図書及び書類を添付しなければならない。

(決定通知)

第七条 市長は、前条の申請があったときは、条例第四条の規定により同意又は不同意の決定を行い、規制対象施設建築等同意(不同意)決定通知書(様式第四号)により建築主に対し通知するものとする。

3  原告は、別紙建築計画目録五「建築場所」記載の土地(以下「本件土地」という。)に、同目録記載の遊技場の建物(以下「本件パチンコ店」という。)を建築することを計画し、平成五年一二月三日付で、被告に対し、本件条例三条二項の規定による同意を求める申請(以下「本件申請」という。)をした。

4  被告は、原告の本件申請に対して、平成七年一二月一四日付で、本件土地は本件条例四条(3)に規定する別表中(5)から(7)まで及び同条(4)の規制区域であり、近隣住民から多数の反対陳情書が提出されており、このことから「生活環境及び教育環境を害するおそれが十分あると判断される」ので四条但書を適用することもできないとして本件不同意処分をした。

5  原告は、平成八年二月一日、被告に対し、本件不同意処分に対して異議申立てをしたが、被告は、同年五月三一日付で右申立てを棄却する旨の決定をした。

6  原告は、本件土地上に本件パチンコ店を建築するため、平成八年一二月一二日、兵庫県社土木事務所に建築基準法六条一項の建築確認申請書を提出し(甲八)、平成九年六月六日、兵庫県建築主事から建築確認を得た。

7  原告は、平成九年九月初めころ、本件パチンコ店の建築に着手した。

二  争点

1  本件不同意処分は、抗告訴訟の対象となる行政処分であるか。

2  本件条例三条及び四条は、地方自治法二条一五項後段及び一四条一項、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風営法」という。)三条、四条二項二号、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行令(以下「風営法施行令」という。)六条、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行条例(昭和三九年兵庫県条例第五五号。以下「兵庫県条例」という。)三条に違反するか。

3  本件条例三条及び四条は、建築基準法に違反するか。

4  本件条例三条及び四条は、憲法二二条一項に違反するか。

5  本件不同意処分は、十分な合理的理由を欠き、また、近隣地店舗との比較において平等を欠き、違法であるか。

第三  争点に関する当事者の主張

一  争点1について

(原告の主張)

原告は、本件不同意処分によって、以下のような具体的な不利益を被ったから、本件不同意処分は、抗告訴訟の対象となる行政処分であるというべきである。

1 三木市内の建築確認に関する権限は、被告ではなく兵庫県知事にあるものの、被告が窓口となって受理手続をしなければならないところ、原告が、平成八年一二月六日、被告に対し、本件パチンコ店の建築確認の申請書類を提出しようとしたところ、被告は、本件不同意処分を理由に受理手続を拒絶した。原告は、やむなく、兵庫県社土木事務所に建築確認の申請書類を提出して受理してもらったが、右土木事務所建築主事が被告に対して右確認に必要な消防関係の照会をしたのに対し、被告が本件不同意処分を理由に回答しないなど、被告の協力を受けることができなかった。

2 原告が、平成九年九月、本件パチンコ店の建築に着手したところ、被告は、同月四日、原告及び施工業者に対し、本件条例六条に基づき、建築工事を即刻中止するよう勧告した。さらに、被告は、同月三〇日、原告を相手方として神戸地方裁判所に建築禁止仮処分の申立てをした。

3 その後、原告は、被告に対し、平成九年一〇月二二日に消防法に基づく防火管理者選任届及び消防計画作成届を、同年一一月一一日に消防機器設置届及び使用開始届を提出したが、被告は、本件不同意処分を理由にこれらの受理を拒絶した。

4 本件条例一二条には、被告(市長)の同意を得ていないことを理由として発せられる工事中止命令等に違反した場合の罰則が規定されている。

(被告の主張)

本件不同意処分によって、原告の権利が直接、具体的に侵害されている旨の主張についてはともかく、本件不同意処分が抗告訴訟の対象となる行政処分であるとの主張については争わない(被告は、第七回口頭弁論期日〔平成九年九月八日〕において、同日付準備書面に基づき、本件不同意処分は行政処分には該当しないと主張して本件訴えの却下を求めたが、第九回口頭弁論期日〔平成一〇年四月八日〕において、同日付準備書面に基づき、右本案前の主張、申立てを撤回した。)〔中略〕

第四  争点1についての当裁判所の判断

一  まず、争点1(本件不同意処分は、抗告訴訟の対象となる行政処分であるか)について検討する。

抗告訴訟(行政事件訴訟法三条一項)の対象となる行政庁の処分とは、行政庁の公権力の行使として使われる行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうと解するのが相当である(最高裁昭和三〇年二月二四日第一小法廷判決・民集九巻二号二一七頁参照)。したがって、それ自体としては国民の法律上の地位ないし権利関係に何ら直接的な影響を及ぼすことのないものは、抗告訴訟の対象となる行政処分には該当しないというべきである。

二  前記第二の一の争いのない事実等によれば、本件条例は、市民の快適で良好な生活環境及び教育環境の実現と沿道修景の保全を図ることを目的とし(一条)、パチンコ店等の遊技場等及びラブホテルを規制対象施設とした上、市内において規制対象施設の建築等(建築、大規模の修繕、大規模の模様替え及び規制対象施設への用途の変更)を行おうとする者は、建築基準法六条一項の規定による確認の申請書を提出する前に、規制対象施設建築等同意申請書を提出して市長の同意を得なければならないとし(三条二項、本件条例施行規則六条)、右同意申請を受けた市長は、同意又は不同意の決定を行い、その結果を建築主に通知するものとし(本件条例施行規則七条)、当該申請に係る規制対象施設が一定の規制区域に位置するときは市長は同意しないものとし、(本件条例四条)、そして、市長は、同意を得ないで規制対象施設の建築等を行っている者に対して、必要な勧告を行うことができ(六条)、建築主が、市長の同意を得ず、又は勧告に従わず、なお規制対象施設を建築しようとするときは、当該建築主に対し、当該規制対象施設の計画の変更若しくは工事の中止を命じ、又は当該規制対象施設の除却等を命ずることができる(七条)ものとしている。

本件条例は、右のとおり、市長は、不同意決定をしたにもかかわらずそれに反して建築等を行おうとする建築主に対して、計画の変更若しくは工事の中止又は除却等を命ずることができるとしているにすぎず、本件不同意処分によって、原告が計画していた本件パチンコ店の建築確認の申請ができなくなるとか、建築等ができなくなる等の法的効果を生じさせるものではない。それは、原告が、本件土地上に本件パチンコ店を建築するため、平成八年一二月一二日、兵庫県社土木事務所に建築確認申請書を提出し、平成九年六月六日、兵庫県建築主事から建築確認を得たことからも明らかである。また、建築主が仮に不同意決定に反して建築等を行ったからといって、そのことだけで直ちに罰則の適用を受けるとの規定もない。右不同意決定は、その効果からすると、同意申請をした者に対して、その計画の再考を促すことに目的があるにすぎないものといわざるを得ない。不同意決定に反して建築等を行おうとする建築主に対する工事中止命令等も、市長は、これらを発することができるとされているが、市長に対してこれらを発することを義務づけるものとはなっていない。

右によれば、原告(建築主)は、本件不同意処分によって、本件パチンコ店の建築確認の申請をする権利を害されたとか、あるいはその建築等を行うことができないという法律上の地位に立たされたものとはいえず、結局、本件不同意処分は、原告の法律上の地位ないし権利関係に何ら直接的な影響を及ぼすものではないというべきである。

したがって、本件処分は、抗告訴訟の対象となる行政処分には該当しない。

三  原告は、本件不同意処分は抗告訴訟の対象となる行政処分であると主張し、その理由として前記第三の一(原告の主張)のとおり主張する。

しかし、被告が事実上、本件不同意処分を理由として、兵庫県建築主事が被告に対して建築確認に必要な消防関係の照会をしたのに対し回答せず、建築禁止仮処分の申立てをし、さらに、消防法に基づく届出を受理しなかったとしても、それらは本件不同意処分に基づく法律上の直接の効果としてなされたものとはいえない。また、工事中止命令等に違反した場合の罰則についても、本件不同意処分がなされたことそれ自体の効果として罰則規定の適用があるのではなく、本件不同意処分がなされたにもかかわらずそれに反して建築主が建築等を開始し、これに対して被告から工事中止命令等が発せられたにもかかわらず、建築主が右命令に従わないときにはじめて罰則規定の適用の有無が問題となるのであるから、本件不同意処分によって建築主の法律上の地位ないし権利関係に直接的に影響を及ぼしたものとはいえない。

したがって、原告の右主張は、採用することができない。

第五  結論

以上によれば、本件訴えは、不適法というべきであるから、その余の争点について判断するまでもなく、これを却下することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 水野武 裁判官 中村哲 今井輝幸)

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